発酵と微生物・酵素の関係.1
前回まで、日本酒の製造工程の内、原料米を蒸して冷ます(放冷)所まで、ご説明してきました
ここから先の工程「製麹(麹造り)」や「酒母造り」では、微生物や酵素の力を借りて行っていく工程になり、まずは、微生物や酵素の事を理解する必要が出てきます
ここからの2回は、「発酵と微生物・酵素の関係」と題しまして、日本酒製造に関わる微生物と酵素の働きについて、詳しくご説明して参ります
微生物の種類
酒類の醸造や発酵食品の製造に関わる微生物は、細菌・酵母・カビの3つのグループに分けられる それぞれのサイズ感は図をご参照ください
1.カビ
一番大きく胞子をつけると、肉眼でも何とか見える。麹菌はカビの仲間で、日本酒醸造には黄麹菌、焼酎製造には黒麹菌・白麹菌が使われる。麹菌が生きて行くには酸素が必要
2.細菌
この中で一番小さい。食中毒菌や病原菌も含まれるが、発酵食品に関わるものとして、酢酸菌・乳酸菌などがある。乳酸菌は酸素が無くても生きていける
3.酵母
細菌より大きく、アルコール発酵を行う。酵母は、酸素の有無にかかわらず生きていけるが、糖濃度が高い状態では、糖をアルコールと二酸化炭素に分解して、エネルギーを得る(アルコール発酵)
※ 発酵と腐敗は、どちらも微生物が増える事により食品などが変化する現象だが、人間にとって都合が良い場合は「発酵」、都合が悪い場合は「腐敗」と呼ばれる
微生物と増殖
微生物の挙動は以下の通り
- [休眠]じっとしている ⇒
- [誘導期]目を覚まして増殖を始める ⇒
- [対数増殖期]二倍・その二倍・さらにその二倍と増殖 ⇒
- [定常期]アルコール濃度が高くなり増殖できなくなる ⇒
- [死滅期]生きるためにアルコール発酵を続け、さらにアルコール度数が高くなり&栄養不足より徐々に死滅していく
微生物の増殖の温度
- 多くの微生物は30℃あたりの温度で最も増殖が盛んとなる
- 焼酎用の酵母の中には、34℃迄旺盛に発酵するものがいる
- 日本酒の酵母は8~17℃といった低温で増殖・発酵出来る事が特徴
- 温度が上がりすぎると微生物は死滅する
微生物の増殖とpH
pHは酸性~アルカリ性の尺度で、中性がpH7、値が小さいと酸性・大きいとアルカリ性。身近な食品のpHは表を参照
一般細菌は中性・pH7辺りで最も生育・酸性側の生育限界はpH5.0~5.5
乳酸菌は酸性に比較的強いものもいるが、酸性の生育限界はpH3.5
カビはpH5.0~6.5あたりで最も生育するが、酸素無しでは生育できないので、醪中では生きていけない
酵母はpH4.0~5.0が最も生育に適するが、酸性側の生育限界がpH3強で乳酸菌よりも酸性に強い
ワインの醪はpH3.5弱であり、酵母は増えても乳酸菌は増えにくい
日本酒の醪はpH4強と乳酸菌を完全に抑える事は出来ないが、低温発酵や三段仕込みや清潔な環境などの要因により、腐造を回避する事が可能
以上のご説明で、少しは日本酒製造で活躍する微生物の事に関して、ご理解いただけましたでしょうか?
次回は、アルコール度数と微生物の関係と、酵素について詳しくご説明します
※こちらもご覧ください!動画でご説明しております!
★酒chいし井講座第七回 発酵と微生物の関係・酵素①【酒chいし井のSAKE DIPLOMA的日本酒講座】