■日本酒基礎講座(9)「日本酒製造工程(上槽後工程)」 

前回は日本酒の製造工程の中で「搾る」=「上槽」の工程まで説明しました

今回はその続きで、「搾る」=「上槽」以降、製品化されるまでに様々な工程を経た上で、瓶詰めされて出荷を迎えます

その工程を図解すると

 

 

※「⑨澱引き」から「⑫割り水(加水)」までは、お酒によって行われたり行われなかったりする工程である

 

日本酒製造工程

行程⑨澱引き(おりびき)

搾ったばかりのお酒は薄濁っているので、そのまま出荷されるお酒もあるが(うす濁り等)、大体のお酒は、濁り部分を取り除く「澱引き」と言う行為を行う

澱引きは、搾ったお酒をタンクに入れ、濁り部分を沈め、透明になった上澄み部分だけを抽出する事により行います

中には、中空糸フィルター型濾過器を使い濁り部分を取り除いて出荷する方法も確立されている

中空糸フィルター濾過のメリットは、通常の澱引きでは、お酒は空気に触れて酸化が進行してしまうが、搾ってすぐのお酒の濁りを中空糸フィルター型濾過器で空気に触れさせずに取り除き瓶詰めする事により、搾ったままの味を消費者に届けられる事です

ただ、この場合「無濾過」とは書けなくなるので、「無濾過」のお酒を好む方に選ばれにくくなると言う、難点も併せ持ちます

※但し「濾過」は炭濾過をしなければ「濾過」でないとの解釈により「中空糸フィルター濾過」をしても「無濾過」と表記している酒蔵もあるらしい

 

行程⑩濾過

以前の日本酒講座(4)で説明したので、今回は簡単な説明に留めます

濾過とは、文字通り上槽したお酒を濾過する事で、最近は「無濾過」で出荷されるお酒があり、この工程は行われない事がある

無濾過」と書かれていないお酒の大体は、「素濾過」と言い、混入した異物を取り除くために、濾紙で濾過するだけの処理をするか、もしくは、前の項目の澱引きに時間をかけない為に、中空糸フィルター濾過器で濾過している物になります

もう一つの濾過方法「炭濾過」は、お酒の雑味やえぐみを取り除くために、活性炭パウダーを入れて、余分な味を吸着させたのちに、活性炭パウダーごと濾過する方法です

これは、普通酒や本醸造酒の味を調えるために行われる事が多い

炭濾過は、えぐみや雑味と一緒に、香りや旨味等、お酒に必要な部分も全て取り除いてしまうので、一概に良い方法であると言えない

 

 行程⑪火入れ

これは、以前の日本酒講座(4)の、生⇔火入れの時に説明しましたが、再度説明します

日本酒の加熱殺菌処理は、通称「火入れ」と呼ばれ、数分から十数分間65℃程度に加熱して行います

より低温で時間をかけてやさしく火入れする蔵元もある

なぜ、加熱殺菌処理を行うかというと、搾ったままのお酒は「生酒」と言われ、その中に酵母や酵素並びに雑菌が生きている為、お酒が変質しやすい(味が変わりやすい)リスクがある為、その酵母や酵素・雑菌などを死滅させる為に加熱殺菌処理を行い、お酒をより安定させる目的で行われます

火入れ作業で、一旦高温に熱されたお酒は、そのまま高温の状態が続くとお酒の味が変わってしまう(老ねる=「老ね香(熟成酒の香り)」がつく)ので、急速に冷却するのが好ましいと言われている

どのように火入れ後のお酒を冷却するかが、蔵元の技術とこだわりの部分になる

また、火入れ作業は通常2回に分けて行われ

  1. 上槽直後の火入れ:この後の貯蔵時にお酒が変質しないように、上槽直後に火入れする
  2. 出荷直前の火入れ:出荷後常温で放置される可能性が高い、スーパーやコンビニで売られているお酒は、少しでも店頭での保管期間中のお酒の変質を避けるために、出荷直前にもう一度火入れを行う

 

 

火入れに関しては、火入れ作業自体がお酒をいじめる事になるので、回数が少ない方がより搾ったままのお酒の味に近いものになる

とは言え、生のお酒も変質しやすいのでそのリスクも考え合わせ、夏以降味わう一番おいしいお酒は、一度火入れのお酒になるのかもしれない

※秋のお酒「ひやおろし」は、春先に一度火入れされ、出荷時の火入れを行わない「生詰め」酒であり、一度火入れのお酒が半年間火入れ熟成されているので、「一番おいしいお酒はひやおろし」とも言われている

その上、火入れ直後は「火冷め香」と呼ばれる、昔ながらの酒っぽい香り(雑味・えぐ味)が出ます

通常一度火入れのお酒も、この火冷め香が落ち着いてから出荷される

また、この火冷め香も、火入れ作業後急冷すると抑えられると言われている

最後に、火入れの方法に関しては、現在色々な方法があり、ここでは説明しきれないので、またテーマを立ててしっかりと説明します

 

行程⑫割り水(加水)

搾ったお酒は、「原酒」と呼ばれる状態で、アルコール度数にして、16°~19°程度とアルコール度数が比較的高めである

そのお酒のアルコール度数を、一般的市販酒の標準的なアルコール度数「14°~15°」程度に下げる事を「割り水(加水)」と言います

割り水は、お酒を造る時に使用した「仕込み水」を搾った後のお酒に加えて、アルコール度数を下げる行為

割り水する理由としては、

  1. 味の調整
  2. アルコール度数の調整
  3. 量を増やす

の3つが考えられるが、最近のお酒は、「③ 量を増やすため」に加水される事は少なくなってきている 

 

⑫瓶詰め

上記の行程を経て(「無濾過生原酒うす濁り」の場合は、上記行程を全て飛ばす形になる)最終的に瓶詰めされる

瓶詰めは、酒屋で販売されている姿の通り、サイズ別(4合瓶=720ml or 1升瓶=1800ml その他 紙パック等)の瓶やパック等にお酒を詰めて、栓(蓋)をします

即出荷されるお酒は、瓶詰め後すぐにラベルが張られるが、この後貯蔵されるお酒は、貯蔵中にラベルが汚れたり、結露などにより水分を含みブヨブヨにならないように、出荷直前にラベルが張られる

 

⑬貯蔵

出荷を待つお酒は、出荷時期が来るまで貯蔵されます

最近は、瓶貯蔵(瓶に詰めた状態で貯蔵される事)が主流になっているが、中には、タンクで貯蔵されるお酒もある

瓶貯蔵の方が、タンク貯蔵の場合のタンク内部の場所による温度変化も無く、空気に触れる面積が少なく酸化の可能性が少ない為に、より良い貯蔵方法だと言われている

ただ、瓶貯蔵の場合、タンク貯蔵よりも広大な貯蔵場所が必要となる為、大型の貯蔵場所(冷蔵庫)が必要になる

各蔵元は、冷蔵設備のキャパシティと出荷計画に基づき、貯蔵方法を決めているようです

また、最近は純米以上の特定名称酒は冷蔵庫貯蔵される事が多く、冷蔵温度も酒蔵の考え方や、狙う熟成度合によって、-2℃から+10℃まで、色々な温度で貯蔵される

  • -2℃~2:お酒の味を変えたくない物・大吟醸などの高価なお酒や生のお酒を貯蔵するのはこの温度
  • 5℃前後:少しは熟成させたいお酒や火入れのお酒を保管するのはこの温度。少々の味の変化(味乗り)を期待している場合はこの温度
  • 10:秋のひやおろしのお酒など、熟成を適度に進めたいお酒の貯蔵温度。常温放置だと、温度変化もあり、また高温になり急激に熟成が進んでしまう可能性があるので、10℃程度でゆっくり熟成を進めるのが一番好ましい

 

最後に一つ豆知識を
アルコール飲料の場合、凍結する温度はアルコール度数20°の原酒で-8℃と言われており、凍る直前の温度 ‐2℃~-4℃程度の氷温で貯蔵すると、殆ど味わいや色が変わらずに貯蔵できる

※家庭用冷凍庫では、-15℃に達して凍ってしまい、瓶が破損する可能性があり、お勧めできません

 

⑭出荷

ここまでの工程を経て、それぞれのお酒の出荷タイミングが来たところで、問屋や酒屋へ向けて出荷されます

ラベルを張らずに瓶貯蔵されていたお酒は、出荷直前にラベルを張り、出荷される

ちなみに、日本酒のラベルに書かれている年月は、蔵元からの出荷月が書かれており、上槽日とは異なります

※例えば、「R58月」と書かれているお酒は、R5年8月に搾られたわけではなく、春先に搾り貯蔵されていたお酒が8月に出荷されたという事に他ならない

 

タイトルとURLをコピーしました