酒米
今回は、お酒の一番大事な原料である「酒米」についてご説明します
酒米とは、お酒を造る為のお米ですが、最近は「酒造好適米」と呼ばれる、日本酒造りの為に作られた=日本酒専用のお米の事を指す事が多い
純米以上の特定名称酒は酒造好適米で造られる事が多く、逆に普通酒は飯米(食用米)で造られる事が多い
日本酒のラベルを見ると、お米の種類が表記してある物と、されていない物があり、表記されていない物は、飯米で造られているか、飯米を中心に何種類かのお米をブレンドして作られている物が多い傾向があります
酒造好適米の特徴
酒造好適米は、農水省の登録を受けた民間の検査機関が行う「米穀検査」で、酒造りにふさわしいお米として認定された物に与えられた名称で、一般の飯米に比べて、大粒で、中心に「心白」と呼ばれる白い部分が存在するお米になります
酒造好適米と飯米の大きな差は、この心白があるかないかで、この心白部分は殆どが炭水化物(でんぷんの結晶体)で、アルコール発酵をする時に、麹が作る糖化酵素によりブドウ糖に分解され、最終的に酵母によりアルコールと二酸化炭素に分解されるこれは、一番最初にご説明した「並行複式発酵」のメカニズムです
次に、でんぷんの結晶体である「心白」以外の周囲の部分には、たんぱく質や脂質が多く含まれています
たんぱく質は、麹が出す別の酵素によりアミノ酸に分解され、脂質は脂肪酸に分解されます
アミノ酸はうまみ成分でもあるが、酸味や苦みが多く、お酒の味を大きく左右する
このように、心白以外の部分はより洗練されていて綺麗な味のお酒を造ろうと思ったら、出来れば無い方が良い部分になります
それ故、高価なお酒である「大吟醸」や「純米大吟醸」は、原料米を50%以下迄磨きたんぱく質や脂質を出来る限り取り除いた「高精白米」で造る事により、よりきれいな味を実現している
続いて、酒造好適米の生産量ランキングから、代表的な酒造好適米の種類について説明します
まずは、令和2年度の品種別生産量です。
第一位:山田錦 28,342t(33.3%)
第二位:五百万石 17,561t(20.6%)
第三位:美山錦 5,710t(6.7%)
第四位:秋田酒こまち 2,343t(2.8%)
第五位:雄町 1,987t(2.3%)
その他 25,501t
全品種合計 81,445t
このように、上位二品種(山田錦・五百万石)で全生産量の約54%を占める形になっている
酒造好適米の主要銘柄
まずは、生産量上位5位にランクインしたお米から
<第一位:山田錦> 原産地:兵庫県
酒米界一番の優等生である山田錦
多分この名前ぐらいはご存知の方も多く、大正12年に兵庫県の酒米「山田穂」を母に、滋賀県の酒米「短稈渡船」を父として交配され、昭和11年に「山田錦」と名付けられた
大粒で心白出現率が高く、心白の形状が線状でやや小さく高精白が可能なため、精米歩合の小さい大吟醸酒や純米大吟醸酒に向く
稈高(稲穂の高さ)が高く病気にも弱く、晩生(おくて)で収穫時期が遅く台風の被害にも逢いやすい、と言う、生育に関してはとにかく農家泣かせの酒米であるが、
①良いお酒が出来やすい
②気候適応性が高く東北から九州までの広い範囲で生育できる
為に2001年以降不動の生産量第一位を誇る
全国的に生産されているが、一番の産地は原産地である兵庫県で、その中でも特A地区と呼ばれている、三木市と加東市産が一番とされている
お酒の味としては、雑味や苦みが少なく、すっきりとした味わいになりやすい
程よいふくらみもあり、すっきり味の純米からフルーティーな大吟醸まで、さまざまなお酒に用いられる
<第二位:五百万石> 原産地:新潟県
昭和から平成にかけて40年以上生産量日本一を誇った酒米
昭和19年に開発されたが、戦争の影響で栽培が中断し、昭和32年に新潟県の栽培奨励品種となり、その時に丁度新潟県の米生産量が五百万石を突破した事を記念して、「五百万石」と名付けられた
心白が大きく、高精白すると割れてしまうので、50%以上磨くのが難しく、大吟醸などの高級酒には向かない
耐冷性・耐倒伏性に弱いが、早生(わせ)で早く収穫できるため、シーズン最初の新酒を仕込む時によく用いられる
原産地は新潟だが、富山県でも多く栽培されていて、特に富山県南砺市産の五百万石はブランドになっている
お酒の味としては、淡白で線が細くさっぱりした味わいになりやすく、最後に苦みが残りやすいのが特徴
<第三位:美山錦> 原産地:長野県
昭和53年に長野県でたかね錦に代わる「大粒で心白出現率が高い」品種を作る為に、たかね錦に放射線処理(γ線照射)をして開発されたお米
長野の美しい山々になぞらえて、命名された
耐冷性が強いため、長野県及び、秋田などの東北や富山などの北陸で栽培されているが、最近では長野の新品種の「ひとめぼれ」や「金紋錦」、秋田では「秋田酒こまち」や「三郷錦」に押され、生産高は減少傾向にある
お酒の味としては、五百万石よりは味わいが出やすく、最後に苦みと渋みを伴うが、全体的にすっきりとした味わいのお酒になりやすく、辛口の日本酒に良く使われる
<第四位:秋田酒こまち> 原産地:秋田県
2001年に秋田県農業試験場にて、「秋系酒251」と「秋系酒306」の交配により開発され、2003年に秋田県の推奨品種に指定された
酒造好適米として最高品質を誇る「山田錦」(兵庫県)並みの醸造特性と、県内酒造好適米の主力品種「美山錦」並みの栽培特性を併せ持つ、吟醸酒用の原料米として育成された品種
「米の秋田は酒の国」というキャッチフレーズをうたう秋田だが、出品酒に使用している酒米のほとんどは「山田錦」を使用していたため、秋田生まれの酒米を使用したいという執念が生み出した酒米である
特定名称酒造りで人気の高い山田錦と同じくらい軟質で麹菌が住みやすく、醪に溶けやすい特徴をもち、寒さに強い美山錦以上の栽培特性も持ち合わせたお米であり、大粒で心白が小さいため、精米歩合を高くすることができる
酒母・もろみでは糖分の製成量が多くなるという傾向があり、また、たんぱく質が少ないことに加えて、でんぷん質が消化しやすい性質を持つため、雑味が少なく“上品な旨さ”になりやすい傾向がある
秋田酒こまちで造られたお酒は上品な甘みがあり、旨さと軽快な後味を持ちながら、フワッと漂う香り高さと味の濃さが特徴的な日本酒になる
<第五位:雄町> 原産地:岡山県
岡山県の雄町で1866年から栽培し続けられている、現存する最古の酒米
100年以上途切れずに栽培されている唯一の品種で、現在栽培されている雄町は、1921年に岡山農業試験場で純系分離されたもの
晩生で、稈高が高く耐倒伏性・耐病性が弱く栽培が困難な品種であるが故に、昭和40年代に生産量が激減したが、1990年ごろから人気に後押しされ、作付面積が増加している
山田錦と並ぶ程の大粒品種で、心白出現率が高い優秀な酒米であるが、お米が柔らかく心白が大きいため、大吟醸などの高精白が難しいのが特徴(山田錦は23%以下まで磨けるが、雄町は44%程度が限界と聞き及んでいる)
岡山辺りの気候に一番適しており、岡山県界隈でしか生産されていない
色々な「雄町」と呼ばれるお米があるが、生産される地域による名前と、他県で他の品種の酒米と掛け合わせてできた、雄町の子供に当たるお米の2種類があり、非常にややこしい
純系雄町:赤磐雄町・備前雄町・船木雄町・比婆雄町
交配品種:改良雄町・こいおまち・兵庫雄町
上記の説明に出ている、「赤磐雄町」と「備前雄町」は、雄町の2大ブランドで、それぞれ岡山県の赤磐地区と備前地区で生産された純系雄町になる
お酒の味としては、軟質で非常に良く溶けるため甘いお酒になりがちだが、醪の温度管理をしっかりして、低温でゆっくり溶かし、じっくりと発酵させることにより、複雑で絶妙なバランスがとれたハーモニー(旨味・香り・甘み・辛み・酸味・苦味・・)を奏でる味わい深いお酒になる
その他、有名な酒米をいくつか紹介します
<出羽燦々> 原産地:山形県
出羽燦々は、山形県で独自に開発された酒造好適米で、美山錦の倒伏しやすさを克服する為に、「美山錦(母)」と「華吹雪(父)」との掛け合わせにより育種された酒造好適米
上記全国区のお米と違い、殆ど山形県でしか生産されていない県独自の酒米
中生(なかて)で、美山錦に比べて耐倒伏性と耐冷性とも強化されている
大粒で心白が大きく、軟らかく溶けやすい酒米で、作り方によって味の幅がある酒質が特徴
山形県では一番ポピュラーな酒米で、最近は山形県外の酒蔵も使うようになって来ている
<愛山> 原産地:兵庫
山田錦と雄町を祖父母に持つ酒米で、昭和16年に山田錦と雄町の子である「愛船117号」と「山雄67号」との交配により開発された
その後、育成試験が昭和26年に打ち切られたが、現在の加東市の一部の農家や集落で栽培が続けられてきた
灘の老舗の蔵元「剣菱」が長く契約栽培で守ってきた秘蔵の酒米であり、昭和55年に産地品種銘柄に指定された
「相山1号」の系統名が正式名だが、現地での短縮系の呼び名「愛山」が今は主流になっている
山田錦よりも耐倒伏性が高く、大粒で心白出現率が高いすぐれた酒米
お酒の味としては、ゆったりとした奥深さ、繊細さを持つ、優しい味わいの酒になると言われている
<八反錦> 原産地:広島
「八反35号」と「アキツホ」を交配して育成された品種で、姉妹品種として「八反錦1号」と「八反錦2号」がある
昭和58年に品種登録が行われている
八反錦では、「八反35号」の収量性の低さが改善され、玄米は大粒で千粒重も大、心白発現率も高い