日本酒度
今回の日本酒講座は、皆さん良く耳にする言葉「日本酒の辛い・甘い」についてお話します
そもそも、日本酒には塩も砂糖もスパイスも入っていないのに(ブドウ糖は生成されていますが...)、「辛い」「甘い」というのは何故なのでしょうか?
そして、その基準は何なのでしょうか?
今回は、その疑問について詳しくご説明致します
日本酒の辛さ・甘さは、一般的には日本酒度によって表されます
その日本酒度とは、プラス(+)・マイナス(-)の数字で表され、0がニュートラル、プラスの数字が大きくなるほど辛く、マイナスの数字が大きくなるほど甘くなります。では、この日本酒度はどのような数値(データ)から出されているのでしょうか?答えは、比重により数値が算出されています
「日本酒度」のメカニズムをご説明すると、お酒の比重を計り、+3℃の水と同じ比重であれば日本酒度±0、それよりも軽くなると日本酒度がどんどんプラスになり、逆に重くなると日本酒度はどんどんマイナスになります
「日本酒度」の算出ロジックだけご説明すると、非常に単純な様に聞こえますが、さて、日本酒の比重は何により決まるのでしょうか?
答えは、以前もご説明しました、日本酒の発酵メカニズムに起因します、日本酒は麹が出す酵素により、お米のでんぷんをブドウ糖に分解し(糖化)、そのブドウ糖を酵母がアルコールと二酸化炭素に分解して出来ております
ブドウ糖は水よりも比重が重いので、ブドウ糖が多ければ比重が重くなります、逆にアルコールは水より軽いので、アルコールが多くなれば比重が軽くなります
日本酒は、並行複式発酵と言って、麹が出す酵素による糖化と、酵母によるアルコール分解が、醪の中で同時に起こっています。酵母がアルコール発酵により殆どのブドウ糖をアルコールに置き換える前=ブドウ糖が多い状態でお酒になると、「比重が重い=日本酒度がマイナス=甘いお酒」になり、酵母が頑張って殆どのブドウ糖をアルコールに発酵させてしまうと、ブドウ糖が少なくアルコールが多くなるため、「比重が軽い=日本酒度がプラス=辛いお酒」になります
通常のお酒造りでは、最初の醸造計画作成時に、このお酒はどの程度発酵させて日本酒度をどれくらいにするかを決めておきます。そして、発酵過程=醪管理時に、いかにその数値に近づけられるかが重要になります。(当然数値よりも味が一番である事は、間違いありませんが)
このように、発酵の段階で糖化を活発にし、ブドウ糖を多く残した状態で搾りお酒にすると、日本酒度がマイナスの甘いお酒になり、糖化を抑え目にして酵母に頑張ってもらい、ブドウ糖が少なくなる状態まで発酵させた(完全発酵させた)お酒は、日本酒度がプラスの辛口のお酒になります
ここまでの説明で、発酵のメカニズムと日本酒度の関係の概略はご理解いただけたと思います。では、甘口のお酒と辛口のお酒、実はそれぞれ簡単には作れない事をご説明します
まず、甘口=日本酒度がマイナスのお酒は、まだブドウ糖が多い発酵途中で搾ってしまえば、日本酒度がマイナス=甘いお酒になりそうですが、ただ単純に発酵の早い段階で搾ってしまうと、発酵がしっかり進んでいないために、アルコール度数が低い状態で搾る事となります
その上、糖化と発酵のバランスが確立されていないタイミングだと、味のバランスが整わず、飲んで美味しいお酒になりません
その上、酵母が元気に発酵している状態で搾ると、劣化臭発生(ピルビン酸)につながるので、ただ単に醪発酵途中の早いタイミングで搾れば、日本酒度がマイナスで甘口の日本酒になるというものでないのです
では、甘口のお酒はどのように造られるかと言うと、通常のお酒造りに比べて、麹の量を増やしたり、酵素力価の強い麹(突きはぜ<総はぜ)を使う事により、糖化がより進みやすい環境を作り、通常と同じ発酵スケジュールの中でブドウ糖がより多く生成される環境を作ってやります。
次に辛口=日本酒度がプラスのお酒の難しさは、酵母という微生物は”けなげ”な微生物で、自らアルコールを生成しているにもかかわらず、自分自身の周囲のアルコール濃度が2高くなると、自らが生成したアルコールに耐えられず、死滅してしまいます
その上、酵母が死滅すると、お酒に良からぬ味成分を出してしまうので、お酒の味が損なわれます
ですので、超辛口のお酒は、発酵のメカニズムの中で、麹の質と量と酵母の発酵具合のバランスを取りながら、どちらもが気持ちよく仕事を全うできる環境を作り、最終的なアルコール度数を20度以下に押さえる必要があります。単純に、しっかり発酵させる(「完全発酵」=「糖を切る」とも言います)だけではなく、辛口の中に味わいのバランスが取れるように、発酵をコントロールしなければなりません
実際、超辛口のお酒の日本酒度はどれくらいでしょうか?
普通「辛口」と呼ばれるお酒の日本酒度は+8~+10程度で、+12~超辛口と呼ぶ蔵元が多いです。世間一般に「辛口」と言われている、奈良の春鹿の超辛口で+16程度です
では、日本酒度のプラスのMAXはどの程度でしょうか?
一昔前は、酵母がアルコール度数20°を超えると死滅してしまう関係上、日本酒度で+20を超えるのは難しいと言われていました
通常使う酵母を使って超辛口のお酒を造っても、やはり酵母が最後まで発酵出来ず、日本酒度+20まで行かないからです
そこで、アルコール耐性が強い酵母を使い、じっくりじっくり発酵させることにより、最近は純米で日本酒度+25とか、+28という、とてつもない日本酒度のお酒が登場しています
(秋田 刈穂の「超ど級気魄の辛口純米+25」や、山形 山法師の「純米爆雷辛口+28」などがそれに当たる)
ちなみに、醸造用アルコールを添加した辛口酒(本醸造・吟醸系)は日本酒度はどうなるのでしょうか?それは、添加する醸造用アルコールは純粋アルコールで比重が軽いため、それを加える事により比重が軽くなり、日本酒度は高くなります
ですから、本醸造や吟醸は日本酒度を高くしやすく、辛口のお酒を作りやすいのです
このように、純米で日本酒を高くするのは、さらに難しい事なのです
ここまで、日本酒度について書いてきましたが、大事な点として「日本酒度が「辛さ」の全てではない」と言う事です
日本酒の味には、甘・辛の他に、酸味・苦味・香り・渋み・旨味・味の濃さ等、様々な味の要素があります
人間の舌は、酸味を辛さととらえる傾向があり、良く酸味のあるお酒を辛口と言う人が居ます(同じケースで、甘さと香りも紙一重で、甘いお酒をフルーティーと言う人も居ます)
ですので、日本酒の辛さは日本酒度だけでは推し量れず、全ての味のバランスで成り立っていると言う事を、覚えておいてください
あくまでも、日本酒度はその日本酒の味を類推する為の、アドバイス的な数値要素だと思っておくと良いと思います